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2015年1月7日水曜日

関東の子どもたちにも甲状腺検査を! ~ボランティアで甲状腺検査を続ける野宗先生インタビュー~



野宗義博先生
 ベラルーシやウクライナ、カザフスタンなどで、20年以上にわたり被ばく者検診を続けてきた野宗義博先生(島根大学・医学部総合医療学講座 外科教授)。
福島第一原子力発電所の事故以降は、福島や関東で、市民団体が実施している子どもの甲状腺検査にボランティアで協力しておられます。
そんな野宗先生に、被ばくの影響が心配されてる子どもの甲状腺がんについて、おうかがいしました。



Q まず、関東の子どもたちの状況についてお聞きします。先日、NHKの報道で、「関東子ども健康調査支援基金」(茨城や千葉など、ホットスポットの保護者が作った市民団体)が実施した甲状腺検査で、以下のような結果が出たと発表がありました。先生は、実際に検査を行っていらっしゃるそうですが、この数字をどう受け止めたらよいのでしょうか。」


※この「正常」とは、「のう胞・結節なし」を指します。
この表記は、「甲状腺超音波診断ガイドブック改定第2版(2012年4月発行)の、超音波診断ガイドライン」を一つの基準にしています。

野宗:今のところ関東の子どもたちに、甲状腺に特別な健康被害が発生している様子は見られません。みなさまが心配されているような明らかな健康被害はおきていませんから、ひとまず安心してもらってもよいと思います。
 しかし関東には、事故直後、放射性プルームの影響がおきており、また、福島原発事故現場からの低濃度の汚染は今も持続しています。甲状腺がんの発症には、放射性ヨウ素による初期被ばくが大きく関係していますが、低濃度の持続汚染地域に住むことが、今後、甲状腺がんの発症に何らかの影響を及ぼさないとは言い切れません。今回の福島原発事故は、これまでの原発事故とは別質のものであり、人類にとってはじめての経験ですから、現段階では今後影響が全く起こらないとは誰も言えないのです。
 また、「被ばくをしているのではないか」という精神的なストレスや、避難などによって生活環境を変えたことによる精神的なストレスなども、がんを引き起こす誘因になることもあります。人のがんは種々の複合的な要因で発生すると言われています。ですから、現在、子どもたちに被ばくによる健康被害がないからといって、決して安心はできません。
 
Q しかし、環境省の『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』では、「北関東は、福島に比べて初期被ばくは少ないし、甲状腺がんは、手術しなくても生命に影響を及ぼさないことが多い。子どもたちが甲状腺検査を受ける負担を考えると、デメリットのほうが大きいので、今のところ検診する必要はない」といった結論が出ていました。
その結果、茨城や千葉、群馬など、汚染環境重点調査地域の子どもたちは、国や県による甲状腺検査を実施してもらえなくなりそうです。これについて、どう思われますか?

野宗:その意見には反対です。だったら、一般的に行われている乳がんや胃がんなどの検診に関しても行わなくてよいということになります。
 たしかに多くの甲状腺がんは、乳がんや胃がんに比べて悪性度は低く、再発転移もまれで、比較的治療後の経過がよいとされています。
しかしながら、なかには不幸にも、がんが再発転移して、何度も手術をすることになったり、生命を脅かされたりする患者さんも存在します。
 一般的に、がんという病気は、その人の生命を脅かす厄介な病気なので、正しく治療しなければ命を奪われることもあります。また、この厄介ながんは初期にはほとんど症状がありません。がんが大きくなって周りの臓器に波及してはじめて種々の症状が現れてきます。ですから早期がんを見つけるためには、平生から定期的な健康診断を受ける必要があります。また、がんの予防方法は現在見つかっていません。
 だからこそ、少しでも健康被害の心配がある方には、いつでも検査を受けられる体制を整えてあげることが重要です。検査を受けて、それで異常が見つからなければ、本当に安心できますね。
「被ばく線量が低いので、医学的に発がんの危険は極めて少ないので、気にしなくてもよいし、検査なんて受ける必要はない」と言って慰めてあげるのも一つの方法かもしれませんが、悩んでいる方、心配している方にきちんと向き合い、検診を行ってあげるのも医療従事者の務めではないでしょうか。

Q 次に、福島の子どもたちについておうかがいします。福島県で実施されている子どもの甲状腺検査では、すでに103人の子どもが、「悪性ないし悪性疑い」ということになっています。(平成26630日段階)この数を、どう捉えていらっしゃいますか。

野宗:通常、がん細胞が3年以内に1~2センチに成長するということは考えにくいので、おそらく、原発事故後比較的早期に見つかっている甲状腺がんについては、ほとんどが事故前から存在していたのではないかと考えられます。ただ、現段階では、「すでに存在していた甲状腺がんに対して、今回の被ばくの影響が全くない」とは言い切れません。何らかの放射線被ばくの影響がないかどうかを、詳細に調査を進めていく必要があります。

Q 現在、見つかっている子どもの甲状腺がんについて、「手術は過剰診療ではないか」とい言う専門家もいます。保護者は混乱していると思うのですが。

野宗:手術しなくてよいという専門家もいますが、それは「すぐに手術をしなくてもいい」ということであって、ほうっておけばいいということではありません。
 私自身は、がん治療とは、早期発見、そして、早期治療が重要と思っています。どうせいつかはがんの手術をする必要があれば、いつまでも放置しないで、早くしたほうが病気の進行も少ないですし、傷も小さくてすみます。また、リンパ節を切除する範囲も小さくてすみますから、手術後の影響も少ないはずです。また、ご本人やご家族の気持ちを考えると、がんを抱えて何か月も暮らすというのは精神的にもよくありませんね。誰でも、がんが見つかれば、早く手術をしてあげ、少しでも早く元の生活を取り戻せたほうがよいと思います。

Q 先生は、福島や関東で、子どもの甲状腺検査をしておられますが、保護者からどんな質問を受けることが多いですか。

野宗:一番多いのは、嚢胞(のうほう)に関する質問ですね。「子どもにたくさん嚢胞が見つかったのだが、被ばくによるものだろうか」とか、「今後、どれくらいの頻度で検診を受けたほうがいいのか」といった内容です。
 先ほど申し上げたように、現段階では被ばくの影響かどうかはわかりません。だからといって、影響がないとも言い切れません。前例がないので、検査は定期的に受けたほうがよいとお話ししています。
 また先日は、福島の方から、「子どもに甲状腺がんが見つかってしまったが、なかなか手術をしてもらえない。早く手術をしてほしいのだが、病院側が対応してくれない」という相談も受けました。
 「島根大学に来てもらえれば、いつでも手術できますよ」とお答えしましたが、経済的にも距離的にも負担がかかりますので、できることなら福島県内で手術を受けられるのが望ましいですね。また、近くの医師にセカンドオピニオンを受けられるとよいですね。より一層、病気への理解が深まります。

Q しかし、福島県内では、セカンドオピニオンを受けづらいという話も聞きます。そういう場合、どうしたらよいでしょうか。

野宗:県外に避難された方は自由に診療を受けておられます。どうしても、福島県内でセカンドオピニオンを受けづらいのでしたら、関東や東北など、それほど負担なく行ける近隣の県で、専門医の診察を受けてみるのもよいと思います。よい医療機関はたくさんありますからね。
 福島からは少し遠いですが、近くに出雲大社のある島根大学でも、甲状腺に関する診療を受けていただくことはできます。
 今後も、医療従事者として、住民のみなさまに対してきちんと向かいあって、できるだけのことをしていきたいと思っています。


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≪パブコメを書こう!≫
ママレボでも傍聴レポートをお送りしてきた環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」。
12月25日に最終の会議が開かれ、とうとう「専門家」による、中間取りまとめが発表されてしまいました。
その内容は、「関東の子どもたちには当面、検診は必要なく、福島県内についても、疫学調査として充実させていく必要はあるが、
被ばく線量の低い地域の検診については今後見直しが必要」といった縮小に傾く内容でした。

 中間とりまとめ内容はこちら→ http://www.env.go.jp/press/files/jp/25691.pdf


環境省は、この専門家によるとりまとめを受けて、「当面の施策の方向性(案)」という発表を行いました。

この案によると、関東のホットスポットの子どもたちの健康リスクはまったく無視し
あくまでも、「被ばくは少ないから問題ない」ということを刷り込む “リスクコミュニケーション”のみに力を注ぐという趣旨のことが書かれています。

環境省は現在、当面の施策の方向性(案)」についてのパブリックコメントを募集しています。
野宗先生のご意見も参考にしつつ、ぜひ、これについて、みなさまのご意見を下記から送っていただければと存じます。

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