「ママレボ通信」では、「ママレボ」の雑誌には掲載されなかった、日々の取材でのこぼれ話やレポートをアップしていく予定です。

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2014年5月30日金曜日

【福島県】応急仮設住宅の供与期間延長について/院内集会のお知らせ

5月28日、福島県から、「東日本大震災に係る応急仮設住宅の供与期間延長について」が発表されました。

内容は平成28年3月まで、1年さらに延長する、というもの。

応急仮設住宅にお住まいの避難されている方はひとまず安心、というところですが、このシステムにはいくつかの問題を孕んでいます。

【問題1】福島県が発表したからといって、通知がすぐに来るわけではない

福島県のホームページ上にある通知によれば、「県内市町村に通知し、受入都道府県には依頼をしております」とあります。福島県内については「通知」を、受入都道府県(=県外)には「依頼」をしています。


「依頼」をされた福島県外の都道府県は、その後、各市町村に「通知」を出します。各市町村は、都道府県からの通知をうけて、ようやく、避難されている方の手元に「延長が決定しました」という手紙を送付するのです。


また、別ルートで、雇用促進住宅(厚生労働省)やUR住宅(国土交通省)から手紙が届きます。こちらも、例年の状況をみると、福島県の発表をうけてから、タイムラグがあるはずです。

たとえば、昨年のケースでは、福島県は平成25年4月17日に通知を出していますが、「9月頃に自宅にお知らせが届きました」という方、ぎりぎりの年末にに届いた方もいます。ひどいケースでは、期日が過ぎてから届いたという方もいるそうです。


避難されている方の中からは「通知が来るまでは安心できない」という声も聞きます。

都道府県の対応を注視すると同時に、そこから先の、各市町村でも、どのように対応するのか、見守る必要があります。できる限り迅速に、避難されている方に延長の通知を手元に届ける対応をしてほしいと思います。

【問題2】気になる「条件」

供与期間が延長にならなかった会津5町村について、福島県の職員に聞いたところ、「そこには避難者がいないから、実質打ち切った、とは言えない」という説明を受けました。


しかし、避難者がまったくいないかどうかは、不確かです。

というのも、避難者数の実態把握については、いまだ混沌としており、復興庁が毎月出している各都道府県の避難者の方々の人数と、各市町村で把握している避難者の方々の人数の合計に、違いが出ている自治体もあります。

その中で、「会津5町村には避難者がいない」と言い切ってしまうことがはたして正しいのかどうか、疑問です。

区域外避難者(自主避難地域の避難者)は、「自分は登録していいのかどうか」という複雑な心境を抱えて、避難生活を続けている人もおり、登録しない人がいるのが現状です。そもそも、総務省が避難者の登録を行っていることすら知らないケースもあります。

また、「避難者がいない」とされていながらも、昨年は、この5町村を明記はしていないわけですから、今回、この5町村をあえて明記したことも、疑問が残ります。平成28年3月以降、この5町村から、「供与延長対象外地域」を拡げていくのではないか、ということを懸念します。


【問題3】相変わらず「1年ごと」の更新


住宅の支援がいつまで続くのか、不透明なまま待ち続けることは、人生設計が成り立ちません。平成28年3月以降のことを、どう考えていけばいいのか、その悩みに対しての答えは、今回も得られていません。

二重生活で経済的に苦しい状況にいるある避難者の方は、「住宅支援が打ち切られるときが、避難生活が終わるとき」と話します。

子どもの成長と共に、家族の状況も変化していきます。

新しい命を迎えた家族もあります。
手狭になった応急仮設住宅からの住み替えも望まれていましたが、それも、解決していません。

この件について、「ひなん生活を守る会」も、16002筆の署名を、集めて、内閣府・福島県・東京都に提出をしています。
今後、どういった対応がなされているのか、注視する必要があります。


◆今後にむけて


県職員に平成28年3月以降はどういった見通しか、ということを聞いたところ、「『阪神淡路大震災』のときが5年間。それは、ひとつの目安になるだろう」とのことでした。

しかし、阪神淡路大震災は、原子力災害ではありません。
原子力発電所事故に対応するための応急仮設住宅の供与期間は、自然災害のケースとは別のものとしてとらえるべきではないでしょうか。

また、判断の材料になるものとして、「復興公営住宅」の整備の状況(復興公営住宅は県内のみの建設で、かつ、条件を満たさないと入居できないという問題もあります)、除染の進み具合なども考えられる、とのことでした。



◆院内集会のお知らせ


これまでにも、応急仮設住宅について、様々な訴えがなされてきました。

平成26年3月19日には、「キビタキの会」が東京都と、懇談会を。
平成26年4月25日には、「ひなん生活を守る会」が内閣府防災担当に署名16002筆を提出。
平成26年5月2日には、同じく「ひなん生活を守る会」が福島県に署名16002筆を提出。
平成26年5月14日には、「原発事故子ども被災者支援法ネットワーク(日弁連・JCN・市民会議)」が院内集会を開催。
平成26年5月19日には、「ひなん生活を守る会」が東京都都市整備局に署名16002筆を提出。

そして、
平成26年6月9日(月)には、都内に住む原発事故避難者の団体、「キビタキの会」が院内集会を行います。「キビタキの会」では参加者を募っているということです。ぜひ、ご参加ください。

◆とき:6月9日(月)午前11時から(受付は10時半から)

◆ところ:参議院議員会館 B103 会議室
◆当日は、11時から12時半まで復興庁及び内閣府の担当者との懇談を予定しています。どなたが参加されるかは現在交渉中。多少時間が短縮される可能性もあります。
◆終了後、同じ部屋で12時半から記者会見を行います。同席できる方はお残りください。
◆お子様連れの方もぜひご参加ください。スタッフを配置したいと思いますので、6月1日(日)までにお子様の人数・年齢・性別をお知らせください。








(ママレボ@伊藤)









漫画『美味しんぼ』の鼻血騒動に関する院内集会について~本日発売の「週刊金曜日」に記事を掲載させていただきました~


 ママレボ編集部では、漫画『美味しんぼ』の鼻血騒動について、インターネット上で、おかあさんたちからのご意見を募集したところ、5月13日~26日の間に50件を越える「声」が寄せられました。

 ブログ上では、すべて掲載しきれなかったのですが、貴重な「声」を寄せてくださったみなさま、情報拡散にご協力してくださったみなさま、ほんとうにありがとうございました。

 お寄せくださった「声」は、5月21日、23日に開かれた鼻血にまつわる院内集会で、参考資料として配らせていただきました。

 院内集会に参加された方々からは、「福島や、関東のおかあさん方の苦悩がよく伝わってきた」と言っていただきました。

 また、これらふたつの院内集会を取材した様子を、本日発売の「週刊金曜日」(5月30日発売号)に掲載していただきましたので、合わせてお読みいただければ幸いです。
 松井英介先生の記事とともに紹介いただいております。




 これからも「ママレボ編集部」といたしましては、おかあさん、おとうさんたちのリアルな声を伝えていきたいと思いますので、今後とも、どうぞよろしくお願い致します。

ママレボ@和田秀子



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第6回 環境省専門家会議 傍聴レポート


  遅くなりましたが、520()に開かれた6回「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に対する専門家会議」の傍聴レポートをお届けします。

不確かな“実測値”を重視

 まずはじめに、もう一度、この専門家会議の目的を確認しておきたいと思います。この専門家会議は、「子ども被災者支援法」の第十三条に定められている国は放射線による健康への影響に関する調査等に関し、必要な施策を講ずること」という条文に従って、以下の点を検討をするための専門家会議です。




 第6回をむかえ、検討事項の(1)被ばく線量把握・評価に関すること」のまとめが、出されようとしています。

 が、結論から言うと、いわき・川俣・飯舘村で321日に測定した、わずか1080人の甲状腺サーべーメーターの実測値だけを重視して、「甲状腺の初期被ばくは(ヨウ素剤を配布する必要のない)50ミリシーベルト以下だった」=「甲状腺がんになるほどの数値ではない」と結論づけようとしています。
 専門家委員会が現在まとめている「住民の被ばく線量把握・評価について」(まとめ)の骨子案を見ると、実測値のデータを「Best  Dose  Data(ベストドーズデータ)」と呼び、環境モニタリングのデータを「NextBestDate(ネクスト・ベストデータ)」、大気拡散シミュレーションなどに基づくデータを「Helpful Date(ヘルプフルデータ)」などと呼んで、実測値をもっとも重視していることがわかります。



 この記述に関して春日文子委員(日本学術会議・副会長)からは、それぞれのデータに強み、弱みがあるのに、こうふうに表記されてしまうと、実測値がベストなんだという誤解を与えかねない。それぞれのデータの限界を、科学的にこの専門家会議で評価したのであって、実測値がベストであるという結論を導いたとは理解しておりません」と、表記に関して疑問が投げかけられました。

 しかしこれに対して、本間俊充委員(日本原子力研究開発機構・安全研究センター長)や中村尚司委員(東北大学・名誉教授)からは、「ベストなデータは実測データに基づくというのが基本。不確実性はあるが実測値にかなうものはない」として、春日委員の意見に反論。長瀧重信座長(長崎大学・名誉教授)も、「不確実なデータばかり集めても仕方ない。春日委員は抵抗があるとのことだが、専門家の意見として受け止めるべきではないか」と、大きく表記を変えるつもりがないことを明らかにしました。

 本来ならばもちろん、不確実性の高いシミュレーションの数値よりも、実測値が正確であることは言うまでもありません。それくらい素人でもわかります。しかし、この実測値に関しては、簡易サーべーメーターで測定されたことや、事故から10日以上もたっていたこと、測定した人数が少なかったことなどにより、実測値といえども「不確実性が高い」と言われています。だからこそ春日委員の言うように、「実測値が絶対なのだ」と国民に誤解されないよう慎重に表記を考えるべきだろうと思うのですが、そうした意見は考慮されませんでした。委員のみなさんは、いつも、ふたことめには「リスクコミュニケーションが大事」とおっしゃるわりには、リスクコミュニケーション能力がありません。

■ゼロ線量が“しきい値”?

 次に、参考人として呼ばれた甲斐晃太郎氏(放射線影響研究所・疫学部長)が、原爆被ばく者の死亡率に関するデータを元に「放射線リスクの線量反応関係」と、「遺伝的影響」について解説しました。



 じつは、前々回の専門家会議で招かれた﨑山比早子氏元放射線医学総合研究所・主任研究官/医学博士)が、小笹氏が書いたこの論文を用いて「放射線が安全なのは放射線がゼロのときのみ」と発言し、委員らから「論文の読みまちがいだ」という反論を受けたため、今回は、論文の著者である小笹氏本人が呼ばれたというわけです。

 小笹氏は、「(﨑山氏のような)誤解を招きやすいのだが、低線量域においてはきわめて不確実性が高いので、0.1グレイ以下の被ばくでは不確実である、としか申し上げられない。そもそも原爆被ばく者の調査が始まったころは、低線量被ばくのリスクを想定していなかったので、評価もあいまいだ」と、奥歯にものがはさまったような、たいへんわかりづらい説明をされ、結果的にはやんわりと崎山氏の見解を否定する形となりました。
 
 しかし、放医研のホームページには要約文がアップされており、それには「定型的な線量閾値解析(線量反応に関する近似直線モデル)では閾値は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。」と書かれています。




 この表記と、﨑山氏が言う「放射線が安全なのは放射線がゼロのときのみ」のとらえ方に、どれほどの違いがあるのか素人である私にはわかりません。(同じように感じます)

 また、遺伝的影響についても、同じく原爆被ばく者のデータを用いて、固形がんや白血病、その他疾患においても有意な増加は見られないと発表しました。
 しかしながら、チェルノブイリ原発事故の影響について書かれた「ウクライナレポート」には、低線量被ばくでのさまざまな影響が記されています。
「低線量被ばくの評価があいまい」とされている広島・長崎の被ばく者のデータばかりを参考にするのではなく、なぜウクライナレポートなども参考にして議論しないのか……、疑問を感じます。


ICRP勧告ですら十分に守られていない

 そして次に、甲斐倫明氏(ICRP4専門委員会委員)が「事故後の対応に関するICRPの考え方」について発表しました。
 このなかで甲斐氏は、ICRPは、原爆被爆者や医療被ばくのデータなどを元に、「いくらかの線量であっても人体への影響は線量の累積に比例すると考えることがもっとも控えめな仮定だと考えており、そのため“しきい値”なしという前提に立って防護するように提言を出してきた」と説明。 とはいっても、放射線を避けることで生じる社会的リスクもあるので、すべてのリスクを包括的に考えたときに妥当だと思われる目標値を示していること。とくに原発事故が起きた緊急時は、放射線を管理できる状態ではないため、参考レベルとして20100ミリシーベルト、緊急時がおさまったら201ミリシーベルトと、放射線が人体に及ぼす確定的影響を軽減することを第一として、時間の経過とともに目標を変えていっていること。
 しかしながら、20ミリシーベルトというのは本来、職業人の線量限度として決められたものなので、公衆被ばくとしては年間1ミリシーベルトを目指していること。よって、人々が「年間1ミリシーベルト」を求めるのは当たり前であって、政府はどの時点で1ミリを達成するのかをわかりやすく伝える必要があること、などを述べました。

 ICRPについては、原子力推進側に立って基準を定めているなどとして批判もありますが、現状において日本政府は、ICRPの勧告すら十分に守れていないのが現状だと再認識させられました。

■鼻血は被ばくと関係ない、と断言

 最後に、ここ最近世間をにぎわしていた漫画『美味しんぼ』の鼻血問題についても放射性物質対策に関する不安の声について」というペーパーが配られ、各委員からは次々と鼻血を否定する意見が出されました。

「鼻血が出るのは34グレイ(34シーベルト)の放射線を浴びて幹細胞が少なくなり、血小板が減少したときだけだ」(鈴木委員)
「福島県民健康調査でも血小板が減っているというデータは出ていない。福島県の医者にも話を聞いたが、患者から鼻血が出たという話は聞いたことがないらしい」(清水委員)

「ホットパーティクルが鼻腔粘膜に付着して鼻血が出ているのではないかという考え方もあるが、鼻血が出るには少なくとも数十グレイ以上の被ばくする必要がある。しかしモニタリングデータからは、そのような数値のホットパーティクルが存在するとは思えない」(伴委員)
 そして最後に長瀧座長がダメ押しで、「専門家会議としては、福島の放射線量で鼻血は出ない」と結論づけ、「被災者に対し、精神的にな悪影響を与えないようにすることも、この専門家会議の役目。そのためにリスクコミュニケーションをしっかりとっていきたい」と、述べて終了しました。

 結局は、不確かなことが多い低線量被ばくの影響を、調査せずにうやむやにしたいのだと感じます。
 それにしても、この会議のもっとも重要な「健康管理のあり方」については、いったいいつから話し合われるのでしょうか。「被ばくはたいしたことない=健康被害はない」という布石は、着々と打たれ続けています。

ママレボ@和田
※筆者の理解不足の点も多々あると思うので、詳細は動画をご覧ください。資料もこちらにアップされています。

Our-Planet-TV
第6回 住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1780






2014年5月20日火曜日

~「美味しんぼ」騒動をめぐる、専門家・表現者たちの声~

漫画『美味しんぼ』の鼻血にかんする騒動に関して、これまで健康相談会などに参加してきた医師や、各分野の専門家、また表現者の方が、コメントを寄せてくださいました。こうした意見も参考にしてみてください。

また、こちらも合わせてお読みいただけると幸いです。

~「美味しんぼ」騒動をめぐる、おかあさんたちの声~



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鼻血論争について 
 
西尾正道(北海道がんセンター 名誉院長)  

 ちまたでは、いまさら鼻血論争が始まっています。事故後は鼻血を出す子どもが多かったため、現実には勝てないので御用学者は沈黙していましたが、急性期の影響がおさまって鼻血を出す人が少なくなったことから、鼻腔を診察したこともない放射線の専門家と称する御用学者達は政府や行政も巻き込んで、放射線の影響を全否定する発言をしているのです。

 しかし、こうしたまだ解明されていない症状については、根源的に物ごとを考えられない頭脳の持ち主たちには、ICRPの基準では理解できないのです。ICRPの論理からいえば、シーベルト単位の被ばくでなければ血液毒性としての血小板減少が生じないので鼻血は出ないというわけです。
 ところがこの場合は、鼻血どころではなく、紫斑も出るし、消化管出血も脳出血なども起こります。しかし現実に血小板減少が無なくても、事故直後は鼻血を出したことがない多くの子どもが鼻血を経験しました。伊達市の保原小学校の『保健だより』には、「1学期間に保健室で気になったことが2つあります。 1つ目は鼻血を出す子が多かったこと」と通知されています。
 またDAYS JAPANの広河隆一氏は、チェルノブイリでの2万5000人以上のアンケート調査で、避難民の5人に1人が鼻血を訴えたと報告しています。こうした厳然たる事実があるのです。
この鼻血については、次のように考えられます。通常は原子や分子は、なんらかの物質と電子対として結合し存在しています。セシウムやヨウ素も例外ではなく、呼吸で吸い込む場合は、塵などと付着して吸い込まれます。このような状態となれば放射化した微粒子のような状態となり、湿潤している粘膜に付着して放射線を出すことになります。そのため、一瞬突き抜けるだけの外部被ばくとは異なり、準内部被ばく的な被ばくとなるのです。

微量な放射線量でも極限で考えると、原子の周りの軌道電子を叩きだし電離を起こします。この範囲が広範であれば、より影響は強く出ます。被ばく線量もさることながら、被ばくした面積や体積がもろに人体影響に関与します。

事故後の状態では、放射性浮遊塵による急性影響が真っ先に出ます。放射性浮遊塵を呼吸で取り込み、鼻腔、咽頭、気管、そして口腔粘膜も含めて広範囲に被ばくすることになりますから、最も静脈が集まっている脆弱な鼻中隔の前下端部のキーゼルバッハという部位から、影響を受けやすい子どもが出血することがあっても不思議ではありません。

また、のどが痛いという症状もこうした仕組みによるものです。この程度の刺激の場合は、粘膜が発赤したりする状態にはならず、診察しても粘膜の色調変化は認められないが、粘膜の易刺激性が高まるため、広範な口腔・咽頭粘膜が被ばくした場合は軽度の痛みやしみる感じを自覚するわけです。

 受けた刺激を無視し、採血や肉眼的な粘膜炎所見などの明らかな異常がなければ、放射線が原因ではないとして刺激の実態をブラックボックス化するICRPの盲信者は科学者としては失格です。
 ICRPの健康被害物語では現実に起こっている被ばくによる全身倦怠感や体調不良などのいわゆる「ぶらぶら病」も説明できません。そのため、なんの研究や調査もせずに、精神的・心理的な問題として片付けようとするわけです。
 今後、生じると思われる多くの非がん性疾患についても否定することでしょう。鼻血論争は、未解明なものは全て非科学的として退け、自分たちの都合のよい内容だけを科学的と称する非科学的なICRP信奉者の発言の始まりでしかないと思います。




事故後、何か月も経過した軍手の写真。このように放射性物質が塵等と結合して放射性微粒子となり、粘膜に付着して準内部被ばくする。


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風評被害だと発言抑圧するのではなく
調査をして真実を明らかにすべき


 岡山 博 
元仙台赤十字病院呼吸器科医師、元東北大学臨床教授 


現時点で、私は被ばくによる鼻血があったかなかったか、両方とも可能性があり断言できない。
原発事故で被ばくした人の数百倍の放射性ヨウ素を、甲状腺ガン治療で飲んでも鼻血は出ない。この程度の全身被ばくで血小板が減って出血傾向になる可能性はほとんどない。そこで、被ばくによる鼻血を否定する人は、「被ばくによる鼻血は論理的にありえない」と言う。
 しかし、呼吸で吸入した放射性物質の多くが狭い範囲の鼻粘膜から吸収されたり、放射性微粒子が粘膜にしばらく留まったりすれば、局所の細胞は強く被ばくするので出血する可能性はありうる。この問題で答えを出すべきことは、被ばくによる鼻血があったかなかったかという事実をはっきりさせることだ。それが確定してはじめて、メカニズムを考えることができる。
  子どもの鼻血はしばしばあるから個別的な鼻血の例を集めても答えは出ない。
鼻血は、本人も親も簡単にわかる。だから、「被ばくが強い地域」「被ばくが弱い地域」「被ばくがほとんどない地域」で、大集団の子どもを調べて、80%以上回収する調査を行い、鼻血の頻度と程度を比べると被ばくに関係した鼻血があったか否かが確定できる。集団の80%以上を回収する調査は、個人や病院が行うことは困難だが、教育委員会が学校単位で行えば簡単だ。
 政府と行政は、「この程度の低線量被ばくでは子どもの甲状腺ガン以外に健康への影響はない」という立場で被ばく対策を行っている。
したがって甲状腺ガン以外の鼻血が被ばくによって生じるとなれば政府の対策の根本が崩れるという意味でも確定することは重要だ。
 2012年4月、政府と福島県の被ばく対策の中心になっていた山下俊一元福島県立医大副学長に、学校単位で鼻血調査をすることを私は直接提案・要望した。
 山下氏は「この程度の被ばくで鼻血は起きません」と言って私の要望を受け入れなかった。学校での調査をこれからでも行うべきだ。これで全てはっきりさせることができる。
  簡単な調査をしないまま、「鼻血はありえない」「不安を煽る」と言って、真実を明らかにしないことや、当然の疑問も「発言するな」という政府や関係者のあり方は、住民の健康を守ることや、危険に対する対応のあり方として誤りだ。被ばくした被害者や住民の安全をわざわざ損なうものである。
 また、メディアや多くの人々が、発言・表現の自由を抑圧する側に加担したり、無関心でいたりする状況は、被ばくとともに重大な問題である。


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安易に被ばくの影響の可能性を否定せず
謙虚に患者の訴えに耳を貸すべき
牛山元美さがみ生協病院 内科部長
県境なき医師団/20mSv をさない医師の会

 2011年の春、子どもの肌が荒れた、口内炎ができて治りにくかった、鼻血が出た、微熱が続いた、リンゴ病が多発した、という訴えを福島や東京、神奈川の親子や幼稚園関係者から聞いています。
 震災、原発事故の後、世間が異様な興奮状態にあり、親の不安や緊張・疲労を子どもも敏感に感じたであろうことが容易に推察され、また、建物の崩壊や火災なども重なり、化学物質や金属粒子などの拡散も考えられるし、もちろん放射性物質の拡散も現実に関東まで及んだことは明白です。
 いろんな症状の原因として、これらすべての因子の関与を考えることは当然です。

 そこで、私が勤務する病院では、患者さんの不安解消に役立てようと、「被ばく関連健診」を行っています。血液検査で血小板数も調べます。甲状腺エコーも心電図も受けていただけます。いろんな情報で不安を募らせた方が、検査や診察を受け、心配している症状を話され、現時点で考えられる医学的な見解を聞かれて、不安を軽減して帰っていかれます。
 詳しく症状をうかがうために「健康ノート」を使用しています。被ばくによる健康障害を懸念する人たちがたくさんいる今の日本で、臨床医がやるべきことのひとつだと思っています。

 一方、この程度の被ばく量なら放射能の影響ではない、と断言する人たちがいます。
広島や長崎の原爆被爆者の例を示し、医療被曝の例を示し、今回の原発事故による被ばく量で鼻血が起きることは医学的に考えられない、と断言されています。
 しかし、チェルノブイリ事故後に小児甲状腺ガンが増え始めたとき、世界的権威ある学者たちが、「広島・長崎では10年後から成人の甲状腺ガンが増えた」ことを例に挙げて否定しました。
 しかし、結局、その後世界はその事実を認め、今では世界的に受け入れられている医学的事実となっていることを忘れてはいけません。
 また、当時、チェルノブイリ周辺国では、子どもが異様に鼻血を出したり、血圧が上昇したり、また夜になるとたくさんの子どもが吐き気をもよおしたりしたそうです。その原因について、放射能が関連していると考える臨床医たちと、それを否定する放射線医学の専門家の間の論争は、いまだに決着していない、と現地の医師から聞きました。

 低線量被ばくによる健康障害については未解明なところが多く、30年以上前にペトカウ博士が報告したバイスタンダー効果について、この4月に日本原子力研究開発機構(JAEA)がほぼ同じ現象を確認し、低線量被ばくの人体への影響評価に大きく貢献する可能性あり、と発表するなど、まだまだ医学界として知見が広まっているとは言えない状態です。
 福島県民だけではなく、日本の広い範囲で低線量被ばくが起きたことは間違いありません。しかも、「風評被害を招くから」という文句で、福島の空間線量が関東よりも高い水準であることすら話題にできない風潮が席巻しています。風評ではなく、実際に今も福島では空間線量が異常に高いところがたくさんあります。福島以外の人々は年間被ばく量1ミリシーベルトで守られながら、福島では20ミリシーベルト までガマンしろ、という差別的な政策が実施されつつあります。
 なぜ福島の人だけ20ミリシーベルトまで被ばくさせられるのをガマンしなければならないのでしょうか?そんな事実を話題にすらできない今の世の中こそ異常です。

 医師は医学的良心に基づいて患者さんと向き合い、安易に被ばくの影響の可能性を否定せず、もっと謙虚に、患者さんの訴えに耳を貸し、いろんな可能性があるなかで、最もその方に妥当と思われる原因を追及し、説明し、患者さんの心身の健康に寄与する責任があると思います。

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鼻血と被ばくの因果関係について議論するより
とにかく丁寧に問診し、記録を残していくことが大事 
         
斧澤 克乃
(心療内科医)/県境なき医師団


私は原発事故以来、福島各地や東京近郊で健康相談を受けています。心配な症状として訴えが多いのは、疲れやすさ、鼻血、のどの痛み、下痢、体のだるさ、頭痛、皮膚炎などです。
放射線量の高い地域の子どもたちの保養活動をした際、授業中に何人も鼻血を出すことはよくあるけれど、日常の風景と化していて、鼻血でいちいち保健室には行かないと話していました。屋外で部活動をしている生徒のなかには、滝のように出る鼻血が止まらなくて、耳鼻科で鼻の奥をレーザーで焼く手術を受けた生徒も何人かいました。

 原発が爆発し、関東一帯を放射性プルームが通過した週末、東京に住んでいる私の子どもも、朝起きたとき、顔の大きさと同じくらいの量の鼻血を出し、枕を汚していました。これほど大量の鼻血を出したのは初めてで、その日行われた保護者会で発言したのをはっきりと覚えています。鼻血については、福島だけでなく、東京近郊の相談会でも、大人からも子どもからも聞かれました。
また、原発事故後3年目に初めて取材のため福島入りした女性も、突然つーっと鼻血が出てびっくりしたと話していました。
 
 子どもは鼻血をよく出すもの、と思われがちです。鼻血と被ばくとの関係については、これまでの科学的知見によると「因果関係はない」とする意見もあります。しかしながら、これだけ多くの人たちから同じような症状が語られること、それこそが真実だと思います。とくにわが子の体調の異変に気づく母親の直観は、小児科医より正しいことも多いのです。

 心配な症状を相談すると、お母さんの心配性がこどもの病気を作る、と相手にされなかったり、そういうことは風評被害をあおり、帰還の妨げになるから言ってはいけないと言われ、もしかしたら自分の方がおかしいのではないか、と周囲から孤立し、ますます不安を口にしにくくなっていることがさらに問題だと思います。

 小児甲状腺ガンについてもそうですが、因果関係がないと否定したり、何も対策をとらずにただ人々の不安を解消したりしようとすればするほど、不安、不信感は募るばかりです。まずは、健診体制を整え、きちんと疫学調査を続けて行くことが先決だと思います。
無用な被ばくを避け、気をつけて暮らして行くことに間違いはないのですから。
                   
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「美味しんぼ」への批判に抗議する 

 蟻塚亮二(精神科医・福島県相馬市)

どちらも私の知り合いである、井戸川前双葉町長と松井英介医師が「放射能によって鼻血が出る」と述べている漫画『美味しんぼ』が、休筆となった。
 
 国会議員の批判にとどまらず、たかが漫画ひとつに官房長官がコメントしたのにも驚いた。

そもそも憲法を変えると選挙公約して201212月の総選挙を勝ち抜いた安倍内閣が、いよいよファシズムの真っ最中に達したと思う。あの2012年選挙で自民党の憲法改悪に反対して、反ファシズム国民連合を作れと私は各政党にメールしたが、無視された。だからもう遅い。
 
 しかし拱手傍観(きょうしゅ・ぼうかん)していられない。基本的に私は言論の自由を守らないと、ビッグコミックスピリッツを出している小学館の、ほかの書籍も長い目で見ると発禁または内容が制約されるのは、火を見るよりも明らかだ。
 そして戦争になって、他国の若者と日本の若者の血を流すことになることには反対だ。だから戦争を防ぐために、漫画「美味しんぼ」の休筆に抗議する。

 20143月にコペンハーゲンで開かれた欧州ストレス学会で、私は「沖縄戦と福島のストレス・トラウマ症候群」と題してポスターを貼って欧米の人たちに訴えた。
 沖縄戦のこと、沖縄の基地のこと、戦後70年近くたってもPTSDが発症して高齢者を苦しめていることを訴えた。そして福島では、行政や大学や医者のリーダーたちが、「放射能による健康被害はない」と主張して、しかし誰も怖くて反論できない状態だと伝えた。
 これには反応があった。「福島のことがやっとわかった」「お前が、福島はまるでファシズムと書いたのはもっともだ」と言ってくれた。

 今は戦前と違って国境はない。どんなににしたって情報は国際的に伝わる。だから、近視眼的な人たちが、「放射能の害はない」と言ったり、『美味しんぼ』を休筆にしたりすることは、たちまち国際的に周知されることになって日本の信用がガタ落ちにかるのは必至だ。それで「実体のないアベノミクス経済」は信用をなくして株価は下がる。
 漫画家が取材して書いたことは漫画家の責任で書いているのだから、堂々と書かせればいい。それをどう判断するかは読み手の問題だ。休筆とは余計なお世話だ。読者よりも戦争政治家の意見を優先するのか。それは出版業界の自殺行為だ。だから漫画『美味しんぼ』の休筆に抗議する。

                   
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放射線リスクを語れない社会こそリスクである
高岡滋 (臨床心理/水俣病神経内科/リハ科/精神科)
ノーモア・ミナマタ訴訟原告側証人

 福島を含め、原発事故後に自分の周囲で鼻血を出す人を見たことはないし、そんなことはない、という意見をよく聞く。
 しかし、医療保健分野では、たとえばの話、1万人にひとり目撃された現象が千人にひとりに認められるようなことがあれば、ただちに対策がとられる。薬剤副作用は、因果関係未解明でも医薬品集に収載され、重大事例は緊急に報告周知される。そうやって社会の安全が保たれてきた。
 ところが、『美味しんぼう』の件にみられるように、放射線に関わることがらでは、まったく逆の現象がみられることになる。
 症状を訴えたら、政府は調査を深めることなく、行政は調査もせずに「風評」(=噂)と認定し、症状を訴えることが社会的に悪とされるのである。水俣病という言葉さえ口にできなくなった水俣が、いまや全国で再現されようとしている。それは、放射線リスクを語れない社会である。リスクを語れない社会は、確実に、そして格段にリスクが高くなる。

 水俣もそうであったように、環境汚染の起こった現場ほど、ほんとうのことは言えない。安心したいし、日々危険と共にあることを受け入れるのは難しい。健康障害の現れ方には個人差もあるし、みんなに症状や病気が現れるわけではない。行政の責任者はこのような状況を逆に利用し、なすべき責務を忘れ、人の心を惑わすことばかり試みている。
 大切なのは、放射性微粒子を含めた放射能の形態・分布・人体曝露、福島を含めた全国民の健康状態を適切かつ継続的に調査、公表し、対策を提示するという義務が政府にあることを国民があらためて認識し、求め続けて行くことである。


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鼻血問題をきっかけに、もう一度福島の安全について考えよう

柳沢 裕子(船橋二和病院内科県境なき医師団/20mSv さない医師の会
鼻血は問題の一端にすぎません。原発事故後に鼻血が出たということは、「ひょっとして放射性物質を吸入したかもしれない」ということを示唆するにすぎないことです。そのあとに病気になるかどうかという話とは別のことでしょう。

ところが、こんな騒ぎになっている。本当に問題にすべきは、福島県やホットスポットエリアにおいて、人体にとって安全でないレベルの放射能汚染を安全だと偽って住民を避難させていないということでしょう。

政府・福島県は事故後これまでずっと、山下俊一先生を筆頭に日本の被ばく医療の専門家やIAEAなどの国際的な原発推進機関をふるに使って、安全論をばらまいてきました。

年間20ミリシーベルトの被ばくまで大丈夫だからと住民をなだめて、ようやく帰還事業を開始している矢先に、ほころびが生じるのではないかという疑念から、ものすごい勢いで言論弾圧をしているということなのでしょうか。漫画のなかで、ひとつの意見を述べたということにすぎないのに、環境省や福島県のこのあまりに過大な反応に驚きます。放射性物質を吸入しても絶対に鼻血は出ないと、どうやって証明するのでしょうか。チェルノブィリではたくさん出ていたのです。そういうこともあるかもしれないという程度の見解の存在すら許さない。この現状はあまりにも異常だと思います。

 この鼻血問題を契機に、いま本当に問題にすべきことは、100ミリシーベルト以下は安全(
ましてや20ミリシーベルトは安全に決まっているから帰還可能)にはなんの根拠もないということを、きちんと認識することです。この見解は科学ではなく、政治的見解です。低線量内部被ばくについては、戦前核開発が開始された当初より、人体に有害であることは知られていました。しかし、原子力の平和利用のためには、原発労働者の被ばくを許容させなければならず、低線量内部被ばくを隠ぺいする必要がありました。そのために作られたのが国際放射線防護委員会(ICRP)であり、現実に被ばくした人たちの健康被害を研究させないためにIAEAWHO協定(1959年)ができました。

 事故後この国がやってきたことは、低線量内部被ばくを科学的に議論させないために、きちんとしたデータをとらせないようにしてきたのではないですかそもそも放射能汚染のもっとも基本となる土壌測定をしていません。とくに、ストロンチウムの測定をしていません。甲状腺内部被ばく線量の測定も、1000名のデータをとったところで中止させました。またホールボディカウンターより内部被ばくについて感度のよい尿検査もさせません。データを取らせずおいて、「証拠はあるのか」というバカバカしさです。ちなみに、昨年ベラルーシに行ったとき、医師が患者の書類を書くために古いカルテをくっていたら、前には存在していたホールボディカウンターのデータが紛失していたと教えられました。福島以後、チェルノブィリのデータすら隠ぺいするような動きがあることを推測させます。

 「100ミリシーベルト以下は安全」論に使われている広島・長崎の寿命研究(LSS)について今一度ふりかえれば、LSSそのものが統計学的に十分信頼のおけないものであることがわかります。また、
一回高線量の広島・長崎と持続低線量被ばくの福島を同一視すべきではありません。原発事故により広島原爆によりウラン換算で160倍以上の放射性物質が放出され、さらに今も放射性物質の隔離はできていません。広島・長崎と事情はまったく違うのです。ですから、LSSの結果をもって福島は安全などと安易に考えられません。しかし、多くの人たちがこのLSSをもって、「100ミリシーベルト以下は統計学的に有意差がないから安全」といって、福島は安全と考える根拠にしていないでしょうか。この点については、今一度きちんとさせないといけないのではないでしょうか。

 日本だけでなく、世界中で同じことは起きていると思います。イラクでは、湾岸戦争後に顕著に小児白血病は増えました。しかしこれは劣化ウランとは無関係であり、放射線障害ではないというのが国際機関の見解です。そのときに使われているのがICRPの理論です。もともと低線量内部被ばくを隠ぺいするためにつくりあげた理論を用いて、無関係と結論付けているのです。では、いったいなんで白血病が増えているのかは、ICRPも国際機関も教えてくれません。

 低線量被ばくでも人体に有害であることを隠ぺいしてこの世界の核支配体制は成立しています。「原発事故の健康へ影響はない」ということを既定の事実とするために、「事故後に出た鼻血が被ばくの影響だと思う」という個人的見解すら言えない。福島の線量では、子どもや妊婦は住むべきではないという考えすら、きちんとした証拠もなく断罪し、それをいう人間を許さないというような雰囲気がつくられている。このことが、「核の支配体制」そのものだと思います。きちんと科学的議論をするためのデータを国や福島県は出してほしいです。(
2014/5/14

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「生活復興」のためにも少数意見に耳を閉ざすな

林 衛 富山大学人間発達科学部・人間環境システム学科 准教授

 
被ばくで鼻血はありえないとする科学者や政治家もいるが、理論的にはありえる。鼻粘膜の微小部位への集中照射によって、感受性の高い人や症状が出やすい状況では出血が生じておかしくない。広島・長崎やチェルノブイリでも症状の報告があるが、疫学調査が少ない背景には、原因がさまざまであること、すぐに出血が止まる場合には医療機関を受診するまでもないのでデータは集まりにくいことがあると考えられる(双葉町に提出された中間報告は貴重である)。

 放射線健康影響が「わかっていない」大きな原因は、そもそも病気の原因の多くがわかっているようでいて、わかっていない点にある。
研究の進展によって、放射線が原因に関係しているとわかる病気は全体的にみて増えていくのは確実だろう。

 理論的にありえて自覚症状を訴えている人がいるにもかかわらず、根拠なく「ありえない」と決めつけるのは思い込みにすぎず、希望的観測なのかもしれないが、探究心を忘れてしまっては科学的な原因究明もできない。
 全身照射で造血系が不良になり、出血が止まらなくなる高線量の急性症状とはちがうのだ。
 疫学調査が少ないのをいいことに、訴えを無視できるとするのは、無責任かつ非科学的な態度である。
なぜ、福島県内の少数意見をとりあげた漫画作品に対し、大臣や首長、自治体が懐疑や疑問の態度を示すのだろうか。それは、「風評」「帰還」を前提とした政府施策がうまくいっていないからだと考えられる。


 基準値以下ならば食べない人がいるのは「風評」被害であり、「除染」によって「帰還」が可能になり復興がはたされるという計画、それに沿った政府、自治体の施策の限界が徐々に浮かび上がってきている。

強制避難がなかった地域でも、原発震災前のとおりにはならず、生活復興は道半ばである。 それは『美味しんぼ』のせいでも、そこでとりあげられた意見のせいでもない。

多様な考え、判断、決断をしている人びとがいる現実に知らんぷりをして、施策を押し通そうとしている政府、復興予算を回す出先機関になっている自治体の失敗なのだ。
 2年、3年と経っても農作物の売り上げが回復しないのは、安倍首相が言うような情報不足のせいではなく、汚染の厳しい現実が知れわたった結果だと見るべきだ(それを示す調査結果もある)。
全部とは言わないが、現実の政策が現実によって否定されているのだから、政策に間違いがある。それを少数意見を代弁して指摘したのが『美味しんぼ』。
 政策を改善するために少数意見を受けとめるべき大臣や首長が聞く耳をもとうとせず、多数者・為政者として圧迫したら生活復興はますます遅れるだけだ。
 
 みんなで、もう一度、「福島の真実」を共有するところから始めよう。


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違和感をおぼえたら、表現すべき

竹内昌義(建築家/東北芸術工科大学教授) 


 「美味しんぼ問題」の一番の問題は、言論統制が本格化してきているということである。作家が自身の体験にもとづいて表現したことを、抗議という形で制限することで、「言いにくいこと」「言いにくい雰囲気」をつくることに問題がある。
そういうなかで、ひとつひとつ抗議しないで、黙っていることはそれを認めていることになる。集団的自衛権しかり、福島の健康問題しかり。今、黙っていてはいけない。ちゃんと違和感を表現するべきだと思う。知人は情報が足らないと言って、判断できないと言っていた。冷静で中立の情報が求められていると思う。
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結論先にありき、は科学ではない
想田和弘(映画作家)
低線量被ばくによって鼻血が出るものなのかどうか、専門的知識を有しているわけではないので僕には分かりません。
でも、『美味しんぼ』をめぐる問題で「福島原発事故の影響で鼻血が出るわけがない。風評被害を助長する」といった非難が、「科学」の名の下によってなされていることには甚だしい疑問を感じます。
なぜなら、それが被ばくと関係があるか否かは別として、元双葉町町長を始めとして「原発事故以降、鼻血がよく出るようになった」と訴える人々がいることは事実だからです。ジャーナリストの広河隆一さんらによる25564人へのアンケート調査によれば、チェルノブイリ事故での避難民の5人に1人が鼻血を訴えたといいます。
ならば、最初から「そんなことは医学的にはありえない」などと切り捨てるのではなく、きちんと調査をして、「鼻血の原因は何か?」と虚心坦懐に探求することこそ「科学的態度」ではないでしょうか。結論先にありきなのは、科学ではありません。
水俣病と有機水銀の関係性が否定され、約10年も患者が放置されたのも、科学の名の下においてでありました。その教訓を忘れてはなりません。
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やるべきは、表現の自由に対する圧力ではなく、情報公開の推進
木野龍逸

(フリージャーナリスト)


 
美味しんぼ問題の加熱ぶりが、異様に思える。個人的にはこんなに大騒ぎするようなことではないと感じているが、騒動の中で、漫画の表現に対して現職閣僚が立て続けに批判したり、環境省や福島県などが抗議文を発表したことには、大きな疑問を感じる。表現の自由に対する圧力に思えてならないからだ。むしろこのことの方が、美味しんぼ問題より深刻なのではないだろうか。
一連の騒動の発端になった鼻血という症例の有無について、実は国は、事実関係を確認できるだけの調査を行っていない。環境省は512日公表した見解の中で「住民に鼻血が多発しているとは考えられない」としたが、これは福島県立医大などの医師らの話を根拠にしたものであり、今後も独自調査はしない考えであることが、環境大臣の会見で明らかになっている。


その一方で、5月中旬には、双葉町等が事故後の様々な症例に関する疫学調査を実施していたことが判明。双葉町では鼻血などが多かったという記述もあることがわかった。それにもかかわらず、鼻血は「考えられない」という見解を発表、維持することは、自由な議論封じ込める圧力にしかならない。

大事なのは、専門家の話を聞くだけではなく、調査から見えてくる事実をもとに議論することであろう。そのためにも国や自治体は、保持している情報を積極的に公開し、市民に議論のベースを提供する必要がある。
事故後、国や福島県は、SPEEDIやメルトダウンを始めとする数々の情報を隠し、混乱に拍車をかけてきた。もしその反省があるのなら、まずやるべきは情報公開の推進だ。今でも公開されていない情報は山のようにあるのだから。国や福島県は、『美味しんぼ』を批判する前に、自ら襟を正す姿勢を見せるべきだだろう。情報を独占している側が市民の意見を批判するなど、あってはならないことだ。
専門家の方のコメントは、今後も追加される予定です。
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~「美味しんぼ」騒動をめぐる、おかあさんたちの声~




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